ポリヴェーガル理論の基礎(1)

ポリヴェーガル理論は,ステファン・ポージェス博士による自律神経系の考え方を刷新する理論で,2018年の11月に訳書が出版されましたので1年が経ったところですが,原著までの研究から心理臨床的な応用,特にトラウマの治療に関して発展しています。

神経生理学から始まったその研究は,心理生理学という形で実験を基盤に理論構築されており,トラウマによる自律神経系の反応が精神症状にどのように影響しているかを丁寧に記述しています。心理臨床への応用では,日本では「ソマティック・エクスペリエンシング」というトラウマ治療を主な目的とした技法が一定の広がりを見せており,訳書もこの技法の実践者が翻訳をしています。

自律神経系は,従来「交感神経」と「副交感神経」に大別されますが,ポリヴェーガル理論では,副交感神経系を人間の進化の過程によって付随する迷走神経の反応の違いによって「背側」「腹側」の二つに分けて論じている点が特徴です。系統発生的に進化の古い順から,「背側迷走神経」「交感神経」「腹側迷走神経」に分類していますが「背側迷走神経」が特に新しい発見と言えます。

トラウマと呼ばれる生存が脅かされる強い刺激によって起こる神経生理学的な「背側迷走神経」の防衛反応として,解離などの精神症状が説明されていて,自閉症に関してもこのトラウマ反応との関連性が示唆されており,心理臨床に新たな視点を与えています。