家族システムに起因するうつ病(3)

家族システムを背景にしたうつ病について書いてきましたが,心が弱いからうつ病になるというわけではなく,様々な要因が背景にあるということを知っていただきたいと願っています。心の専門家の仕事は,背景にある要因をていねいに把握していくことです。

家族療法では,家族の中で不適応や疾患を生じた人をIP(Identified Patient)と呼び,家族システムの歪みをたまたま引き受けている人というニュアンスがあります。システム論的には,その構造が変化すれば,IPである必要がなくなったり,IPが別の人に替わったりすると考えます。このため,IP本人でなくても,別の家族がカウンセリングにより変化をもたらしてもいいのです。

家族システムの中で,IPが家族を安定させる役割をとっていることがあります。例えば,両親が不仲で離婚しそうなときに,子どもが不登校になったり病気になったりすることで,両親の目が子どもに向き,協力する気持ちになった場合などです。子どもはとても敏感に家族システムの歪みを感じとっていて,無意識にそうなってしまうので,意図的にそうしていることはほぼありません。

このようなシステム論は,他の精神疾患の背景を考えるときも有用ですし,家族だけでなく,会社など組織の構造をみていくのにも役に立ちます。社員などのメンタルヘルスにはもちろんですが,問題を通して家族や組織を改善するヒントにもなっていきます。